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ダマスカスヤギの顔は怖い?気持ち悪い?中東で”美しい”と人気の理由

黒いダマスカスヤギ

「これ、本当にヤギ?」とつぶやいてしまうような顔。 中東のある品評会では、その顔が最も美しいと讃えられました。

ダマスカスヤギは、見る人によって怖いとも気持ち悪いとも、あるいは神秘的だとも感じさせる、世界でも類を見ない個性的なヤギです。

シリアやレバノンを中心とする中東の農村地帯で何千年も人々の暮らしを支え、ミルクや肉を豊富に供給してきた実用的な家畜でもあります。

その独特すぎる外見と、中東での根強い人気の理由を、一緒にのぞいてみましょう。

目次

ダマスカスヤギの基本情報

分類偶蹄目・ウシ科・ヤギ属
主な生息地シリア、レバノン、ヨルダン、キプロス、中東・北アフリカ全域
平均寿命8〜12年
体高(肩高)0.70m〜0.78m
英語表記Damascus goat / Shami goat / Damascene goat
別名シャーミ、アレッポ、ハレプ、バラディ、ダマセン

ダマスカスヤギは、シリアの首都ダマスカスの名を冠した中東原産の家畜ヤギで、正式な学名はCapra aegagrus hircusです。

子どもの頃はふわふわとした垂れ耳が愛らしく、成長するとともに額がぐっと盛り上がり、鼻が突き出した独特の顔立ちへと変わっていきます。

その変貌ぶりから「モンスターゴート」とも呼ばれることがありますが、実のところ温厚な性格で、乳量・産肉量ともに非常に優れた家畜です。

国連食糧農業機関(FAO)が高い優先度で注目しているほど、農業上の価値は折り紙つきです。

ダマスカスヤギの顔が怖い・気持ち悪いと言われる理由と特徴

茶色のダマスカスヤギ

結論からいうと、ダマスカスヤギの顔が怖い・気持ち悪いと感じられるのは、成長とともに際立つ「短頭症(ブラキセファリー)」的な顔の構造が原因です。

広い額からぐっと前方へ湾曲した鼻梁、短くつぶれたような吻部(ふんぶ)——まるで壁に激突したあとのような顔つきは、他のヤギにはほとんど見られないものです。

さらに25〜32センチにも達する長い垂れ耳が顔の両側にだらりと下がり、正面から見るとそのインパクトはなかなかのものです。

とはいえ、ダマスカスヤギは生まれた直後、他のヤギとそれほど変わらない愛くるしい顔をしています。

生後数ヶ月の間は、長い耳とふわふわの被毛が愛らしく、そのギャップが多くの人を驚かせます。

成長とともに顔の骨格が発達し、額の盛り上がりと短い吻部が目立つようになるのです。

毛色は赤みがかった茶色が一般的ですが、シルバーホワイト・ファーン・グレーなど多彩なバリエーションがあります。

オスは体重70〜90kgほどで、メスは50〜65kgほど。

体格は大柄で筋肉質、脚が長く首もすらりとしています。

角がある個体とない個体が混在し、被毛は比較的長めです。

さて、2008年にサウジアラビアのリヤドで開催された「マザイン・アル・マーズ(Mazayen al-Maaz)」という山羊の美貌コンテストで、「カフル(Qahr)」という名のダマスカスヤギが最優秀賞を獲得しています。

世界が「怖い」「気持ち悪い」と騒ぐ一方で、中東の審査員たちがその顔に最上の美しさを見出しているのですから、美の基準は文化によってずいぶん異なるものですね。

ダマスカスヤギの生態と中東で人気の理由

白いダマスカスヤギ

ダマスカスヤギが中東で長年にわたって愛されてきた理由は、その生態にあります。

端的に言えば、過酷な砂漠環境に適応した非常に「丈夫で使える」ヤギだからです。

シリアやレバノンの乾燥した平原に目を向けると、40度を超える灼熱の太陽の下でも平然と草を食む姿が見られます。

食性は草食性で、牧草・干し草・雑草・藁など幅広い植物を食べます。

他のヤギより少ない水と食料で生きていける点が、水資源の乏しい中東農業にとって大きな強みになっています。

天敵はオオカミやジャッカルなどの肉食動物ですが、群れで行動することで安全を確保しています。

行動面では、温順でおとなしい性格が際立ちます。

ふと観察していると、同じ群れの仲間同士で声を上げながら情報を伝え合う様子が見られます。

牧夫との信頼関係を築きやすく、初心者の農家にも扱いやすいとされています。

乳量は1日1〜2リットル、1泌乳期あたり350〜650kgに達し、高い脂肪・タンパク含有量のミルクはチーズやヨーグルトの原料として重宝されています。

ダマスカスヤギの繁殖と子育て

繁殖に関しては、ダマスカスヤギは季節繁殖型の動物です。

交配シーズンは毎年8月下旬から12月にかけてで、ピークは9月〜10月頃。 雌(ドウ)は発情周期が18〜24日、発情持続時間が約36時間で、無事に交配が成立すると約150〜155日の妊娠期間を経て出産します。

一度の出産で3〜4頭の仔を産むこともあり、双子・三つ子も珍しくありません。

生まれたての子ヤギは体重3.2〜5.5kgほどで、長い耳を垂らしたふわふわの外見に多くの人がキュンとします。

母ヤギの母性は非常に強く、子ヤギが生まれた直後から丁寧に体をなめ、授乳を始めます。

それでも繁殖管理には注意が必要で、妊娠中の母ヤギには栄養管理と適切な獣医ケアが欠かせません。

また、生後4週頃からワクチン接種や駆虫を開始し、子ヤギの健康を守ることが推奨されています。

子ヤギは生後7〜10ヶ月で性成熟を迎え、体重が成熟体重の60〜70%に達する頃から初めての発情が確認されます。

ダマスカスヤギの進化と人による品種改良の歴史

ダマスカスヤギ

ダマスカスヤギの起源は、少なくとも1万年前にまでさかのぼると考えられています。

シリアのダマスカス近郊にあるテル・アスワッド遺跡では、新石器時代のヤギ牧畜の証拠が発掘されており、この地域が家畜ヤギの家畜化の中心地のひとつであったことが示されています。

古代アッシリア時代の記録にも、ダマスカスヤギに連なる品種への言及が見られます。

もともとはシリア型とヌビア型の系統が混ざり合って形成されたとされており、その痕跡は現在も耳の形や鼻梁の湾曲に見られます。

よく知られているアングロ・ヌビアン種もダマスカスヤギと共通の祖先を持つとされており、ダマスカスの血統は世界中の多くの品種の形成に貢献しています。

1771年に博物学者トーマス・ペナントが著した「四足動物概説(Synopsis of Quadrupeds)」にもアレッポのヤギとして記述されており、当時すでに中東を代表するヤギ品種として広く知られていました。

19世紀にはイギリスによってキプロスへ持ち込まれ、現地の在来種との交配によって乳量・産肉量をさらに高める品種改良が進みました。

その後20世紀半ばから体系的な遺伝子選抜が行われ、現在のダマスカスヤギの高い生産能力が確立されています。

ただし、あの特徴的な「つぶれた顔」は自然淘汰ではなく、コンテストや市場で高値がつく「美醜の基準」に合わせた人間による集中的な選抜育種の産物である点は覚えておきたいところです。

もともとの純血ダマスカスヤギはもう少し長い吻部を持っていたとする研究者も少なくありません。

ダマスカスヤギの怖い顔に秘めた魅力のまとめ

黒いダマスカスヤギ

2008年6月13日、サウジアラビアのリヤドで開催されたヤギの品評会「マザーイン・アル=マーズ(Mazayen al-Maaz)」において、ダマスカスヤギの1頭が「最も美しいヤギ」の称号を獲得しました。

受賞個体の名前はカー(Qahr)。

写真が公開されると、「怖い」「気持ち悪い」という声と「なぜこれが最も美しいのか」という疑問が世界規模で広がりました。

とはいえ、品評会での基準は明快です。

額のアーチが高いほど、耳が長く垂れ下がるほど、短い吻部がより強調されているほど——それがリヤドの会場では「美しい」ヤギの条件でした。

最高品質の個体には25万サウジリヤル(日本円換算で約680万円以上)の値がつくこともあり、飼育者にとってダマスカスヤギの容姿は純粋に経済価値を持つものです。

数千年にわたり中東の遊牧民とともに生き、高い産乳能力を持ちながら、ダマスカスヤギはいまなお「怖い」「モンスターヤギ」と形容されることが少なくありません。

ダマスカスヤギの顔が問いかけるのは、結局のところ「美しさとは誰が決めるのか」という、動物学の枠を超えた問いかもしれませんね。

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