国際自然保護連合(IUCN)が作成する「IUCNレッドリスト」は、世界の野生生物がどの程度、絶滅の危険にさらされているのかを科学的に評価する仕組みです。
単純に現在の個体数だけを見るのではありません。
個体数の減少、生息する地域の広さ、生息地の分断、成熟した個体の数、将来絶滅する確率など、複数の基準を使って評価します。
IUCNレッドリストには、
EX・EW・CR・EN・VU・NT・LC・DD・NE
という9つのカテゴリーがあります。
ただし、この9つすべてが「絶滅危惧種」という意味ではありません。
IUCNでは、
- CR(Critically Endangered)
- EN(Endangered)
- VU(Vulnerable)
の3つをまとめて「Threatened」と呼んでいます。
つまり、一般に「絶滅危惧種」と考えられるのは、VU以上の3カテゴリーです。

地球誕生以来、生物の99.9%は絶滅してきました。
いま地球にいる生物は、奇跡的な確率で「たまたま」存在していると言っても過言ではありません。
各ページには生物の基礎情報も丁寧に解説しており、学術的な内容も充実。
IUCNレッドリストにおける9つのカテゴリー

絶滅の危険が高い順に並べると、おおむね次のようになります。
EX:絶滅
EW:野生絶滅
CR:深刻な危機
EN:危機
VU:危急
NT:準絶滅危惧
LC:低懸念
DD:データ不足
NE:未評価
ただし、DDとNEは「絶滅の危険が低い」という意味ではありません。
情報不足または未評価のため、危険度そのものを判断できないカテゴリーです。
EX:絶滅(Extinct)
EXは、その種の最後の個体がこの世を去ったと合理的に判断できる状態です。
IUCNでは、過去に生息していた地域や、生息している可能性がある場所を適切な時期に十分調査しても個体が確認できず、生き残っている合理的な可能性がない場合に絶滅と判断します。
代表的な例として知られているのが、ドードーやフクロオオカミ(タスマニアタイガー)です。
ここで重要なのは、「野生からいなくなっただけ」ではEXにならないことです。
動物園や繁殖施設などで生き残っている場合は、次のEWに分類される可能性があります。
EW:野生絶滅(Extinct in the Wild)
EWは、本来の自然分布域では生き残っておらず、飼育・栽培下などでのみ生存している状態です。
本来の分布域から大きく離れた場所に移され、そこで野生化した個体群だけが残っている場合もEWに含まれることがあります。
つまり、
「種そのものは残っているが、本来の自然環境からは消えてしまった状態」
と考えるとわかりやすいでしょう。
例として、タンザニア原産のキハンシスプレーヒキガエル(Kihansi spray toad)などがあります。
EWになった種でも、生息地の回復や繁殖、再導入によって野生個体群を復活させられる可能性があります。
そのため、EWは必ずしも「野生復帰がほぼ不可能」という意味ではありません。
CR:深刻な危機(Critically Endangered)
CRは、野生で絶滅するリスクが極めて高いと判断されたカテゴリーです。
IUCNの絶滅危惧カテゴリーの中では、最も危険度が高い段階になります。
個体数が非常に少ない場合だけでなく、
・短期間で個体数が大幅に減少している
・生息できる地域が極端に狭い
・生息地が細かく分断されている
・将来絶滅する確率が非常に高い
といった条件によってCRに分類されることがあります。
ジャワサイなどは、このカテゴリーに分類される代表的な動物です。
なお、日本の環境省レッドリストでは、CRに対応するカテゴリーを「絶滅危惧IA類」と呼んでいます。
EN:危機(Endangered)
ENは、野生で絶滅するリスクが非常に高いと判断されたカテゴリーです。
CRほど切迫してはいませんが、すでに深刻な状況にあることに変わりはありません。
個体数の大幅な減少、生息地の縮小、密猟、森林破壊、外来種など、さまざまな原因によってENに分類されます。
アジアゾウなどが代表的な例です。
日本の環境省レッドリストでは、ENに対応するカテゴリーを「絶滅危惧IB類」と呼びます。
VU:危急(Vulnerable)
VUは、野生で絶滅するリスクが高いと判断されたカテゴリーです。
ここは特に誤解されやすい部分です。
VUは、
「現在はまだ絶滅の危機に瀕していない」
という意味ではありません。
CRやENほど危険度が高くないだけで、すでにIUCNが「絶滅のおそれがある」と判断しているカテゴリーです。
そのため、
CR・EN・VUの3つがIUCNにおけるThreatenedカテゴリー
となります。
日本の環境省レッドリストでは、VUに対応するカテゴリーを「絶滅危惧II類」と呼びます。
NT:準絶滅危惧(Near Threatened)
NTは、現在のところCR・EN・VUの基準には達していないものの、絶滅危惧カテゴリーに近い状態にある種です。
現在の減少が続いたり、生息環境が悪化したりすると、将来VUなどに移る可能性があります。
そのため、NTは「安全な種」という意味ではありません。
絶滅危惧種になる前の段階として、個体数や生息環境を継続して調べることが重要です。
LC:低懸念(Least Concern)
LCは、IUCNの基準で評価した結果、CR・EN・VU・NTのいずれにも該当しなかった種です。
比較的広い地域に生息している種や、十分な個体数が確認されている種などが含まれます。
ただし、
LC=絶対に安全
という意味ではありません。
環境の変化や新しい病気、外来種、乱獲などによって状況が変われば、将来カテゴリーが変更される可能性があります。
IUCNも、LCは「保全する必要がない」という意味ではないと説明しています。
DD:データ不足(Data Deficient)
DDは、絶滅リスクを判断するための情報が不足している種です。
例えば、
・どれくらいの個体がいるのかわからない
・生息範囲がよくわからない
・個体数が増えているのか減っているのかわからない
といった場合があります。
注意したいのは、
DDは「絶滅の危険が低い」という意味ではない
ということです。
十分に調査されていないだけで、実際には高い絶滅リスクを抱えている可能性もあります。
IUCNも、DDは脅威がないことを示すカテゴリーではなく、絶滅リスクを直接または間接的に評価できるだけの情報が不足している状態と定義しています。
NE:未評価(Not Evaluated)
NEは、IUCNの評価をまだ受けていない種です。
つまり、
「調査した結果、安全だった」のではなく、「まだIUCNの基準による評価が行われていない」
という意味です。
そのため、NEについて絶滅の危険が高いか低いかを判断することはできません。
IUCNの分類体系にはNEが含まれていますが、まだ評価されていないため、厳密にはIUCNレッドリストに評価済みの種として掲載されているわけではありません。
CR・EN・VUの違いは「絶滅リスクの高さ」
IUCNの分類で特に重要なのが、
CR・EN・VU
の違いです。
簡単に整理すると、
| カテゴリー | 絶滅リスク |
|---|---|
| CR | 極めて高い |
| EN | 非常に高い |
| VU | 高い |
となります。
この3つはすべて、すでに「絶滅のおそれがある」と判断された種です。
その下にあるNTは、「まだ絶滅危惧種には該当しないものの、それに近い状態」を表します。
IUCNと日本の「絶滅危惧IA類」は同じ名前ではない
日本では、
「絶滅危惧IA類」
「絶滅危惧IB類」
「絶滅危惧II類」
という名称をよく目にします。
これは、日本の環境省レッドリストで使われているカテゴリー名です。
対応関係は次のようになります。
| IUCNのカテゴリー | 環境省レッドリストで使われる名称 |
|---|---|
| CR:Critically Endangered | 絶滅危惧IA類 |
| EN:Endangered | 絶滅危惧IB類 |
| VU:Vulnerable | 絶滅危惧II類 |
環境省のカテゴリーはIUCNのカテゴリーを参考に整備されていますが、IUCNそのものが「絶滅危惧IA類」という名称を使っているわけではありません。
レッドリストは「珍しい動物ランキング」ではない

IUCNレッドリストについて、最後に覚えておきたい重要な点があります。
レッドリストは単純に、
「残り何匹いるか」だけで順位を決めているわけではありません。
IUCNでは、地理的な分布範囲、個体数、個体数の増減、成熟個体数、絶滅確率などを含む5つの基準を使って評価しています。
そのため、個体数が比較的多くても急激に減少していれば高いカテゴリーになることがあります。
反対に、もともとの個体数が少なくても、生息状況が安定していれば同じ評価になるとは限りません。
IUCNレッドリストは、世界の生物が現在どの程度絶滅に近づいているのかを、共通の基準で比較するための重要な仕組みなのです。

地球誕生以来、生物の99.9%は絶滅してきました。
いま地球にいる生物は、奇跡的な確率で「たまたま」存在していると言っても過言ではありません。
各ページには生物の基礎情報も丁寧に解説しており、学術的な内容も充実。


















