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エトピリカは飛べない?葉加瀬太郎の名曲タイトルにもなった美しい花魁鳥

エトピリカ

エトピリカは、アイヌ語で「くちばし(エト)が美しい(ピリカ)」を意味するこの名のとおり、鮮やかなオレンジ色のくちばしと金色の飾り羽が印象的な海鳥です。

葉加瀬太郎氏がヴァイオリン曲のタイトルに選んだほど、エトピリカには人の心を引きつける魅力があります。

「花魁鳥(おいらんちょう)」という別名を持ち、北太平洋の荒波の上でひっそりと、しかし誰よりも鮮やかに生きているのです。

環境省のレッドリストでは絶滅危惧IA類(CR)に指定されており、日本国内では北海道根室市沖のユルリ島・モユルリ島でわずかなつがいが確認されているのみとなりました。

目次

エトピリカの基本情報

項目内容
分類チドリ目ウミスズメ科エトピリカ属
学名Lunda chirrhata
英語表記Tufted Puffin
主な生息地北太平洋亜寒帯海域(北海道東部・ロシア沿岸・アラスカ・カナダ・アメリカ西海岸)
体長約40cm
体重800g前後
平均寿命15〜20年

エトピリカは飛べない!は一部だけ事実

空を飛んでいるエトピリカ

「エトピリカは飛べない」という話を耳にすることがありますが、それは正確ではありません。

エトピリカは確かに飛びます。

が、なんと飛べなくなる時期があるのです。

それは主に繁殖期(夏)が終わった後、秋から冬にかけて(8〜11月頃)起き、エトピリカを含むウミスズメ科の鳥は、翼の羽を一度に全部抜け替える「同時換羽」 を行います。

これにより、翼の羽が揃って抜け落ちてしまうため、一時的に飛行能力を失うことになるのです。

この「飛べなくなる期間」は40日程度と言われています。

繁殖期(夏羽)のエトピリカは、全身が艶のある黒、顔面だけが純白、目の後ろから垂れる金色のふさ状飾り羽が見事に揃います。

頭に簪(かんざし)を挿したように見えることから「花魁鳥」と呼ばれてきたのは、なんとも粋な命名です。

一方で冬羽になると飾り羽は抜け落ち、くちばしの色も褪せ、別の鳥かと思うほど地味な姿に変わります。

冬羽のエトピリカ
冬羽のエトピリカ

体長は約40cmで、ウミスズメ科の中では最大級の種に位置づけられています。

くちばしの内側には後向きのとげ状突起が並んでおり、イカナゴなどの小魚を10〜20匹まとめてくわえたまま巣に戻ることができます。

足はオレンジ色で、体の後方についているため陸上では少し不器用な歩き方になりますが、水中では力強いパドルとして機能します。

エトピリカの生態は外洋の孤独と繁殖地の賑わいに二分される

エトピリカの夫婦

エトピリカは、ウミスズメ科の仲間の中でもっとも外洋性が強い種とされています。

繁殖期を除く長い時間を、陸から遠く離れた北太平洋の沖合で過ごします。 波間に浮かびながら、10〜25羽ほどの群れを作って魚を追うことが多いようです。

食性は主に小魚中心で、イカナゴ・ニシン・カタクチイワシなどの魚類を好み、ほかにもイカ類・オキアミ・甲殻類なども摂食します。

潜水深度は通常10m程度ですが、コーネル大学鳥類研究所の記録では最大約110m(360フィート)に達することも確認されています。

天敵はオオトウゾクカモメ、カモメ類、キツネ類(特にロシアのコマンドルスキー諸島ではアカギツネ)などです。

ドブネズミも繁殖地への侵入が大きな脅威となっており、1970年代以降に北海道のユルリ島・モユルリ島へ侵入したドブネズミが、卵やヒナへの被害を広げたと考えられています。

「クルルルッ」という低い唸り声を巣穴の中で発しますが、普段はほとんど声を聞くことができません。 海の上では静かに、しかし颯爽と生きる鳥です。

エトピリカの繁殖と子育て

繁殖期は5〜8月にかけてで、産卵は5〜6月に集中します。 島や海岸の断崖上部の草地に、くちばしと足を使って穴を掘り、コロニーを形成して集団で営巣します。

岩の隙間を利用することもあり、巣の内部には草や自らの羽毛が敷かれます。

産卵数は毎回1個のみで、白い卵をオスとメスが交替しながら42〜46日間抱卵します。

孵化したヒナは炭色の産毛に包まれており、親鳥からイカナゴやニシン、イカなどを与えられながら成長します。

孵化から44〜47日ほどで巣立ちを迎えますが、飛べるようになるまで、ヒナは巣穴の外に出ることはありません。

興味深いのは、エトピリカが一夫一妻制を採ることです。

つがいは毎年同じコロニーに戻り、同じ巣穴を再利用する傾向があります。

性成熟は3〜5歳で、多くは4〜5歳に初めて繁殖に加わります。それまでの幼鳥は外洋で2〜3年を過ごし、繁殖地に姿を見せません。

エトピリカの進化はペンギンに似た「もう一つの解答」として注目される

水面を泳ぐエトピリカ

エトピリカが属するウミスズメ科(Alcidae)は、チドリ目の中に位置づけられています。

ウミスズメ類は北半球に分布し、南半球のペンギン類とは系統が全く異なりますが、「短い翼で水中を飛ぶ」という生活様式を独立に獲得しました。

これは収斂進化の典型例として、鳥類研究者の間でよく語られます。

翼は空を飛ぶ機能と潜水する機能を同時に担わなければならないため、両者のバランスを保った構造になっています。

ペンギン類は空中飛行を完全に捨てたのに対し、エトピリカは飛行能力を保ったまま潜水適応を高めたという点で、進化的な選択が異なります。

くちばしの構造もユニークです。

繁殖期には明るいオレンジ色に変化し、内側にはのこぎり状の突起が並ぶため、水中で魚をくわえながら追加で捕獲することができます。

この構造は長い年月をかけて洗練されたもので、「口を閉じないまま複数の魚をくわえ続ける」という高度な採餌を可能にしています。

化石記録では、ウミスズメ類の祖先は始新世(約5,600〜3,390万年前)に遡ると考えられており、北太平洋を中心に独自の進化を遂げてきました。

エトピリカ属(Lunda)はウミスズメ科の中で単型属を形成し、近縁のツノメドリ属(Fratercula)とは外見・生態ともに異なる独自の地位を占めています。

エトピリカについてのまとめ

水中を泳ぐエトピリカ

葉加瀬太郎氏が子どもの頃から「ピエロのような派手な顔立ちに心を奪われていた」という逸話は、エトピリカの持つ独特の存在感をよく物語っています。

飛べないと思われがちなエトピリカですが、実際は飛びますし、水中でも翼を羽ばたかせて巧みに泳ぎます。

しかし、日本国内での状況は楽観できません。

1960年代に北海道東部で約250羽が確認されていた繁殖集団は、1990年代には10羽前後にまで落ち込み、2015年の調査では1980年比で約87%が減少したと推定されています。

漁業による混獲、外来ネズミ類の侵入、気候変動による海水温の上昇――複数の要因が重なった結果です。

それでも、根室市沖のユルリ島・モユルリ島では今なお数組のつがいが確認されており、環境省や研究者たちによる保護活動が続いています。

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