
ニュージーランドの森の奥でひっそり夜を歩く飛べない鳥、それがキーウィという生きものです。
茶褐色のふわふわとした羽毛をまとい、丸い体に長いくちばしを伸ばした姿は、スーパーの棚に並ぶキウイフルーツとよく似ている――そう感じる人は少なくありません。
名前まで似ているのは偶然か、それとも何か血縁の関係があるのか。
実のところ両者の縁はちょっと意外な順序になっていて、知るとちょっとした自慢話のタネになるでしょう。
ニュージーランドの先住民マオリ族が古くから親しんできた小さな住民の素顔を、果実との縁とあわせてお届けします。
キーウィの基本情報
- 分類:鳥綱・古顎類・キーウィ目・キーウィ科・キーウィ属
- 主な生息地:ニュージーランド(北島、南島、スチュワート島ほか)
- 平均寿命:野生下で15~20年、飼育下では約40年
- 体長:0.25m~0.45m
- 英語表記:Kiwi
キーウィの特徴

体長は25センチから45センチほど、体重は2キロから3キロ前後で、メスのほうがオスよりひと回り大きく育ちます。
全身を覆う羽毛は、まるで毛皮のような触感だそう。
触れると指がふわっと沈み込むらしく、鳥というより小型の哺乳類に近い肌触りに感じられるでしょう。
翼はわずか数センチほどに退化し、羽毛の中にすっかり埋もれて見えるか見えないか。
尾羽もありません。
ニュージーランド南島の森で地面をトコトコと歩くキーウィを横から眺めたとき、輪郭が果皮の毛羽立ったキウイフルーツに重なる――この見た目こそが、果実に名前を譲るほど印象的だった点なのです。
長いくちばしは体長の3分の1ほどを占めます。
さらに変わっているのが、くちばしの先端に鼻孔が開いている点。
鳥類は嗅覚が乏しいとされてきましたが、キーウィに限ってはまるで犬のような嗅ぎ分け能力を発揮します。
夜の落ち葉をくんくん探りながら、ミミズや甲虫の幼虫を掘り当てる仕草には、地面に顔を埋める哺乳類めいた愛嬌があふれていますね。
鳥のキーウィと果実のキウイってどういう関係?

結論から言うと、キウイフルーツの茶色く毛羽立った外見がニュージーランドの国鳥キーウィにそっくりだったことから、「Kiwifruit(キーウィフルーツ)」という愛称が与えられ、これが世界中に定着したのです。
キーウィ(鳥)の名前の由来
キーウィという呼び名は、ニュージーランドの先住民マオリ族の言葉に由来します。
オスのキーウィが繁殖期の夜に「キーウィー、キーウィー」と甲高く鳴く声を聞いたマオリ族の人々が、その鳴き声をそのまま名前として与えた、というのが定説です。
つまり鳴き声をなぞった、いわゆる擬声語(オノマトペ)由来の命名というわけですね。
マオリ族がニュージーランドに到達したのは13世紀ごろとされており、その頃にはすでにキーウィの存在が認識され、名付けられていたと考えられます。
ヨーロッパ人による「発見」(学術的な記載)は、1813年にイギリスの動物学者ジョージ・ショー(George Shaw)が学名 Apteryx australis として正式に記載したのが最初です。
学名の Apteryx はギリシャ語で「翼がない」を意味し、飛べない特徴を反映した命名となっています。
キウイ(果実)の名前の由来
果実のキウイ(キウイフルーツ)の名前は、ニュージーランドの国鳥キーウィにあやかってつけられた、後発の命名です。
原産地は中国の長江(揚子江)流域で、現地では「ヤンタオ(羊桃)」あるいは「ミーホウタオ(獼猴桃/猿が好む桃の意)」と呼ばれていました。
ニュージーランドに種子が持ち込まれたのは1904年。
北島ワンガヌイ女子高校の校長イザベル・フレイザー女史が、宜昌(イーチャン)に住む妹を訪ねた帰路、種子を持ち帰ったのが始まりです。
種子は植物学者アレクサンダー・アリソン氏のもとで育てられ、1910年に初めて結実しました。
当初の英語名は原産地にちなんだ「Chinese gooseberry(チャイニーズ・グーズベリー)」。
しかし1959年、ニュージーランドからアメリカへの本格輸出を始めるにあたり、輸出商社ターナーズ&グロワーズ社が販売戦略上の改名を決断します。
当時は冷戦下で米中関係が緊張しており、「チャイニーズ」を冠した名前ではアメリカ市場で売れにくいと判断されたのです。
また「グーズベリー(スグリ)」という名前は別の果物を連想させ、関税面でも不利だったため、キウイフルーツの名前を使用したそうです。
キーウィの繁殖と子育て

繁殖期は南半球の春から夏にあたる6月から3月ごろ。
メスは1個から2個の卵を産み落とします。
卵の重量は実に自分の体重の20パーセントに達し、ニワトリの卵のおよそ6倍。
産卵直前のメスは胃が押し上げられ、食欲を失うほどだそうです。
産卵を終えるとオスの出番。
オスは巣穴に身を潜め、70日から80日もの長期にわたり卵を温め続けます。
その間ほとんど餌を口にしないため、体重がストンと落ちることもしばしば。
ニュージーランドには「キーウィ・ハズバンド」という言い回しがあり、家事と育児に献身的な父親をこう例えるのが定番になっています。
孵化したヒナは生まれた瞬間から羽毛が生えそろい、卵黄をお腹に残したまま殻を破る早熟ぶり。
最初の数日はお腹の栄養で過ごし、1週間ほど経つと自力で巣を出て餌を探し始めます。
親の世話はほぼ受けないまま、若鳥は数か月かけて独り立ちしていくというわけです。
キーウィの進化からたどるキウイ(果実)と見た目が似てる関係の正体

走鳥類――ダチョウ、エミュー、ヒクイドリ、レア、そしてキーウィを含む飛べない鳥の仲間は、長らく超大陸ゴンドワナの分裂にともなって各地で独自に進化したと信じられてきました。
ところが2014年、オーストラリアのアデレード大学のキエレン・ミッチェル氏らがScience誌に発表した古代DNA研究で、定説が大きく揺らぎます。
キーウィの最も近い親戚は、同じニュージーランドに棲んでいた巨鳥モアではなく、マダガスカル島でかつて生きていた象鳥エピオルニスだと判明したのです。
2016年には日本の山階鳥類研究所、米澤隆弘氏(現・復旦大学)と長谷川政美氏らの研究チームも同様の系統樹を裏付け、走鳥類の祖先は「空を飛んで分布を広げた」とのシナリオを提唱しました。
つまりキーウィの祖先は、はるか昔にどこかの大陸から飛来してニュージーランドに降り立ち、天敵不在の楽園でじわじわと翼を縮めていった――というのが現在の有力な見立てです。
夜行性へ進化し、嗅覚で地中の虫を嗅ぎ分ける生き方へとシフトしたのは、哺乳類の不在というすき間を埋めるためだと考えられています。
小さく丸く、毛皮めいた羽毛をまとった姿は、生活様式の副産物にすぎません。
果実のキウイとキーウィが似ているのは、まったく別々の進化の道筋がたまたま同じような形に行き着いた偶然のたまもの、ということになりますね。
キーウィと果実のキウイの関係についてのまとめと不思議な縁

ニュージーランドの森で慎ましく暮らす飛べない鳥、キーウィ。
小さな体に大きすぎる卵、長いくちばしの先で土の匂いを嗅ぐ姿、献身的に巣を守る父親――どの一面をとっても他の鳥類とは違うリズムで生きています。
さらにマダガスカルのエピオルニスと血縁で結ばれているという進化の物語は、地球を半周するロマンに満ちているでしょう。
果実のキウイとは、もちろん生物学的な関係はありません。
似ているのはあくまで見た目だけ。
それでも1959年の命名以来、両者は世界中で一緒に語られる名コンビとなりました。
大阪市の天王寺動物園では、1970年の大阪万博を記念して贈られた個体から始まる飼育史が長く続きましたが、2024年8月にメスのプクヌイ(35歳)が静かに最期を迎えたことで、日本の動物園からキーウィの姿はいったん途絶えています。
野生のキーウィに会いたいなら、ニュージーランド最南端のスチュワート島あたりが狙い目だそう。
夜の森のどこかで「キーウィ、キーウィ」と呼び合う声を耳にしたとき、果実とのちょっと風変わりな縁を思い出してみるのも、なかなか乙な楽しみ方ではないでしょうか。








